母がよく作っていた「蛸と小芋の炊いたん」
「たいたん」とは、京ことばで「炊いたもの」を指します。
菜っ葉のたいたん、大根とおアゲのたいたん、ひじきのたいたん……母の煮物は絶品でした。
「タコと小芋」は小芋を先に炊いて、煮すぎると固くなる蛸は後からサッと煮るだけです。
仕上げに、おろし金でカリカリさせた柚子を芋蛸に降り入れて完成です。
我が家の定番料理「蛸と小芋」を5種類の器に盛り付けて比べてみました。
見込み(料理が盛り付けられる部分)のサイズ・形状でくらべる
種類で分けると「鉢」に属する器を今回は主に使用しましたが、お皿でも「三島手八角深皿」のように、縁が立ち上がっている形状だと便利に使い回せます。ただ、お皿のように見込みの平面が広いと食材によっては座りが悪いかもしれないですね。
あとの4つは、押したり伸ばしたりの変化を加えていますが、基本は丸くロクロ成形した鉢です。
「三方押し麦わら手鉢」のようにフォルムに大きな動きを加えると器の余白が料理を引き立たせます。
芋蛸との相性はこの中で一番かもしれません。
一方、やや小ぶりな「銀彩もみじ鉢」や「染付四君子向付」は深さがあるので、小さくても量が入ります。
また、「イタリアンな鉢」は全体からすると使える部分は小さく(口径8cm高さ5cm)ぐい吞みくらいの大きさで少量しか入りません。メイン料理には使い辛く、少しのパスタや前菜の器で、家庭向きではないようですが、意外に芋蛸が似合いました。
原料(質感)でくらべる
上の2つは磁器、白と染付は不動の人気があります。硬質で汚れにくい点もポイントです。
キリっとした潔さが芋蛸の存在感を押し出している印象があります。
下の3種類は陶器、柔らかな味わいがある土が原料です。土と言っても種類は配合によって多種あります。
その上、釉薬との掛合わせで無限の可能性があり、陶芸家にとっては興味の尽きないところです。
素朴な芋蛸は料理の色が地味ですから、この3種類の陶器に品よく馴染んでいます。
色や模様でくらべる
「銀彩もみじ絵鉢」
もみじをイッチンで描き、銀で彩った絵柄を描いていて、おもてなしのシーンで活躍する器です。うつわの外側にもラインを描き、渋い焼〆を華やかな逸品に仕上げています。芋蛸は少な目に盛り付けて、お酒を楽しむ上質なひとときのお供に。
「三島手八角深皿」
縁に配した印花模様が美しい三島手の伝統技法を用いています。印花の色合いと見込み部分のアイボリーの美しい調和が芋蛸を優しく包んでいます。
「染付四君子隅入向付」
四君子模様とは、蘭、・竹・菊・梅の4種類の花をひとつの器に描く吉祥模様です。
外側に大きく、内側には小紋と合わせて描き詰めてあります。白地に藍色は磁器の定番、どんな料理にも使われています。書き詰めているのに邪魔にならない上品な佇まいが人気の秘密でしょうか。
「イタリアンな鉢」
芋蛸を盛り付ける器比べに、真っ白な器を入れたくて選んだのがなぜかこの器。
和食器のカテゴリーではありませんし、重なりも悪いのでご家庭使用にはお勧めできかねますが、芋蛸が想像以上にしっくりきました。
京都では「おばんざい」と呼ばれている煮物や炊き合わせなど、家庭料理で欠かせないお惣菜は、器に中高(なかだか)にこんもりと盛り付けると見栄えも良く、おもてなしの料理にもなります。
器を変えるだけで、いつもの料理を新鮮に感じる事ができます。魯山人曰く、器は料理の着物だそうですから、楽しみながら衣替え(器替え)に挑戦してみてはいかがでしょう。新しい発見があるかもしれません。